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【富澤輝実子】着物でお出かけ:美術鑑賞ルポ「正倉院展」、毎年のように通った

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文:富澤輝実子

毎年のように通った「正倉院展」
今日は、美術鑑賞ルポの第2弾をお届けします。
昨年は令和元年を祝う「正倉院展」が東京国立博物館で開催されました。私も前期・後期とも鑑賞して、東大寺献物帳に墨で書かれた目録の品がすぐその前に展示されていることに深く感動しました。1200年の歴史を目の前の実物で感じることのできる幸せに浸るのでした。そこで思い出すのは、もう30~40年位前ですが毎年のように正倉院展鑑賞のため「奈良国立博物館」(以下奈良博)通いをしていた頃のことです。JR東京駅から朝一番の新幹線、6時初の「ひかり号」に乗って京都駅着が9時半頃。京都駅から近鉄に乗り換えておよそ30分、近鉄奈良駅に到着です。駅前のゆるやかな坂を上りながら左手を見ると「奈良県立美術館」があり、右手には「興福寺」が見えます。さらに少し進むと右手に奈良博が見えてきます。奈良博は建物自体も大変立派で、明治時代の洋風建築の代表例として国の重要文化財に指定されています。そして左手には東大寺の広大な敷地が広がります。その奥深くに正倉院の建物が静かに立っているのですが、そこは遠くからそっと見るだけが許されています。

当時を振り返って
さて奈良博で開かれている正倉院展に入りましょう。まだ若かった私は、螺鈿紫檀五弦琵琶(らでんしたんごげんびわ)ですとか平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう)、紅牙撥褸撥(こうげばちるのばち)というようなきらびやかな宝物に目が行き、その色彩と造形、繊細巧緻な技術に引き込まれて魅了されていました。
ところが、この頃は別の視点で鑑賞する自分に気が付きました。布裳(ふのも)という麻のスカートやそこに書かれた墨書に興味がわくのです。35年以上前にも東京で正倉院展が開かれたことがありました。昭和天皇傘寿記念だったかと思いますが、そのときの注目の一点は「楽毅論(がっきろん)」でした。光明皇后の御手になる臨書との解説に魅了されますが、書の最後に記された「天平十六年十月三日」と「藤三娘(とうさんじょう)」の文字でした。藤三娘とは藤原不比等の三女という意味です。書に不案内な私にも実に堂々たる筆致と分かる遺品でした。墨ってスゴイですね! 1200年を経ても薄れて見えなくなることがない優れた文宝ですね。同時に展示されていたのが「布袋(ふのふくろ)」という麻の袋でした。そこには「天平勝寶二年十月」の日付と共に信濃国の男性が作物の辛子を二斗納めたことが墨書されているのです。今、その時の図録を見ると当時の二斗は今の何キロなのかしら? とか、どうやって辛子二斗を運んだのかしら? などと知りたいことが湧いてきますが、当時はほとんど見過ごしていたらしく、思い出せないのです。

いつか出合いたい「布屏風袋残欠」
今、とっても出合いたいと思っているのは「布屏風袋残欠」と聞く麻製の屏風袋の残欠です。越後の国から税として納めた記録のある麻生地として有名なものです。そこには誰が納めたかが墨で記されているため、新潟県の麻織物に携わる人々にとっては貴重な歴史資料となっているのです。いつか正倉院展で出合えることを願って今年も注目したいと思っています。
余談ですが、1980年頃のことです。同僚と二人で会社を休んでこっそり奈良に行きました。その週は『美しいキモノ』冬号の校了間際で皆が目を血走らせて作業に追われてているときでした。私達がうっとりと正倉院展を見ていたシーンがその日のお昼のニュースでバッチリ放送されていたのです。翌日の編集部では皆の知るところとなって白い目で見られ、忘れられない思い出となりました。

染織・絹文化研究家:富澤輝実子(とみざわ・きみこ)
1951年新潟県生まれ。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)入社後、『美しいキモノ』編集部で活躍。副編集長を経て独立、染織と絹文化研究の道に入る。誌面連載「あのときの流行と『美しいキモノ』」も好評。

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〒933-0804富山県高岡市問屋町20番地
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